随に

まにまに

春のひとり散歩 〜豪徳寺・経堂〜

 

雨や曇りの日が続いた後の、朝からすっきりした晴天。

最近は出かけても近所に10〜15分程度でなまった身体には堪えるかもしれないが、ちょっとお出かけしてみようという気持ちを押してくれる空だった。

 

何となく、パン屋さんのパンが食べたいな。行くなら、あのちょっと有名なところ。行ったことないけど。少し遠いけど、他に予定があるわけでもなし。と、ぼんやりとパン屋へ行くことを中心に据えて、近所を散歩した後、間に合うバスへと歩き出した。詳しい行き先は、バスに乗ってから調べよう。ふだんではありえない行動パターンだが、春の陽気に誘われて、いつもなら下調べキッチリしてから行くところを、ゆるりと出かけたのだった。

 

インスタグラムで良さそうなお店があるとグーグルマップに印を付けていたので、気になっていたパン屋の近くに何かないかなと探す。

ホットケーキのお店、フィンランドおやつのお店、そして春といえば道明寺の桜餅、和菓子のお店も見つけた。

かなりの渋滞で、定刻のきっちり倍の時間をかけてバスが駅に到着したけれど、今日は時間に縛られていないから、ひとつも焦りはしなかった。珍しいことだ。

 

電車を乗り継いで、豪徳寺駅へ。

乗り継ぎ乗降ではなく、意思を持って東京都内の駅で降りるのはいつぶりだろう。

夫と暮らし始めた頃は、お互いの通勤事情から一応東京の中で暮らしていたけれど、もうこの首都で暮らすこともあるまいなと思う。そもそも、東京に住みたいと思ったことは一度もなかった。東京は通過点でしかなく、とどまるには相性がよくないみたいだ。

 

豪徳寺には、主たる目的のパン屋さん、『Uneclef』(ユヌクレ)へ。

インスタグラムでよく投稿されているのを何年か見てきたので気になっていた。

駅からはほぼ一本道で、看板も店構えも質素な雰囲気だったので、人が並んでいなかったら通り過ぎてしまっていたかもしれない。

こじんまりとした店内は、それでも半分ほどをイートインスペースとしていて、満席のようだった。

購入のみの場合も外の列に並び、最大二人が店内でパンを選べる、という具合。

頃合いを見て、店員さんが都度ドアを開けて「お入りください」とやってくれるので、これは結構たいへんそうだなと思う。

列で並ぶ間、壁が全てガラスだったので店内のパンが見えていたから、どれにしようかというのはだいたい検討がつけられてよかった。

買ったもの。

・塩とチョコのスコーン(好みのかたち)

・カレーパン(揚げてない)

・豆(チリコンカン?)とソーセージのパン

・柚子とマカダミアナッツのパン(おいし〜)

・レモンケーキ(包み紙がかわいい)

 

ほくほくと店を出ると、タバコを吸いながらタラタラ歩いている若者たちが5〜6人いたので、サッと横道に逸れてみた。

来たのとは違う、細い道で、裏道のようだったが暗くもなく、機転をきかせていい方へ向かえた。

方角的に豪徳寺の駅に出るかな?と思ったら、世田谷線という南北に走る電車の山下という駅に出た。踏切が鳴っている。思いつきで、パッと山下駅に入ってみた。すでに奥のホームへ行くための踏切が降りているが上下線どちらに乗ればいいのかわからず、簡単な路線図を見て調べる。たまたま、踏切手前のホームが行きたい方面だった。ラッキー。

しかし、小田急線のような改札が無く、戸惑う。

北鎌倉駅のような入退場のICカードをタッチする機械も無い。

狭いホームには、人々が並んでいるようだったので、それに倣う。

電車がホームに入ってくると、「入り口」から乗車して、その時にICカードを車内でタッチする仕組みだった。バスみたいだ。

次の「宮の坂」という駅で降りる。ここでもICカードのタッチは無し。心許ない。今度電車に乗るときにエラーが出たらどうしよう、と考えてしまう小心者だ。(出なかった)

 

事前に地図とにらめっこしていたお陰で世田谷線という路線があって、目的地に向かうには好都合だったことを知っていたし、ちょうど来た電車に運よく乗れて、方角も合っていた。今日は"憑いてる"かもしれない。

普段だったら、たった一駅分、歩くところなのだが、行きは電車で帰りは歩きも悪くない。あんまり歩くとお腹も張るし。今後乗る機会があるのかもわからない、二両編成のローカル線に乗るのも面白かった。

三軒茶屋行き」という表示を見て思い出したけど、10年以上前に一度だけ利用したことがある気がしてきた。その時も、一人でカフェやパン屋巡りをしていたっけな。

 

宮の坂駅で下車し、駅に隣接する区民センターのような場所でトイレを借りる。建物の入り口で受付の方が誰かと話し中だったので会釈して入った。出る時もなんとなく、ありがとうございましたと言ったら「お気をつけて」と返してくれた。なんだか、いい街だな。

目的地の和菓子屋さんへ直行するつもりだったけれど、駅のすぐ近くにわりと広めの神社をみつけて入ってみた。世田谷八幡宮

手を清め、拝殿前に進んで財布の中身を見ると、見事に5円玉が1枚のみ。

他に人もいなかったので、ゆっくりと拝んで鳥居をくぐった。

神社に入るときにも気になっていた、駅前交差点のたこ焼き屋。一度は通り過ぎたものの、「京風たこ焼き」ということばに惹かれて引き返す。

マヨネーズは?かける?寄せとく?と訊かれて寄せてもらった。6個入りを買って、歩を進めながらぱくり。熱々のとろとろでおいしい。おいしさに夢中で気づかなかったが、この時口の中をやけどしていた。

 

しばらく歩くと、お目当ての和菓子屋さん『まほろ堂 蒼月』。

お昼の時間帯だったからか、先客はおらず、ゆっくりと品定めできた。

買ったもの。

・道明寺

・桜餅

・桜の花弁が載った薯蕷饅頭

まねきねこどら(どら焼き)

 

春といえば、道明寺。

しかし、スーパーの大量生産品で季節の一品を済ませてしまっていいのか?否、と思っていたところだったのだ。

せっかく東京まで足を伸ばしたので、おいしそうな和菓子屋さんで、という目論見は大正解。

「こし餡を手づくりしている和菓子屋さんは、尊い…」という思いを噛み締めながら、帰宅後に道明寺と桜餅を半分ずついただいた。

あとでネットを見ると、ショーケースの上に載っていた青豆大福が目玉商品だったようだ。もし再訪する日があれば、いつか。

 

まほろ堂さんを後にして、再び豪徳寺駅方面へ。

線路沿いの細い道にお店がひしめき合っている。途中のコーヒー店で挽いた豆を買い求めたかったが、こだわりの店頭販売をしている雰囲気に気後れして一度は戻ったものの断念。

いつもよりゆっくりのペースで歩いていると、見覚えのあるショーケース。

そうだ、フィンランドのおやつも買おうと思っていたのだ。

『フィーカファブリケン』は最近オープンしたフィンランドのおやつのお店。

少し前に『かもめ食堂』を観たのと、ツイッターで「フィーカ」というフィンランドのコーヒータイムの習慣を知って、よき哉、とシナモンロールをひとつ購入。

帰ってから温めていただいたところ、想像していたよりも甘さは控えめ。昔流行ったシナボンが甘すぎたのか。

自分で作ってみたくもあるのだが、時間はあれど、生地を捏ねる力が入らないので、パンは買うことにしたのだ。パンは、捏ねてる時が一番楽しいので。

 

豪徳寺駅を過ぎて西へ。

ユリの木通りをまっすぐに経堂方面へ。

おしゃれな名前が付いていること、と地図を見ていて思ったが、この通りは車道とは別に植樹された歩道が整備されていて感激した。

こういうところが住みよい街といわれる所以なんだろうなあ。

調べたところ、ユヌクレさんから脇道に入った素敵な裏道と思っていた道も、線路を挟んでユリの木通りとほぼ繋がる形になっていた。こちらは北沢川緑道という名前が付いていた。道理で整備されていたわけだ。

 

宮の坂駅から豪徳寺駅を過ぎて、経堂駅まで歩いてきてしまった。

途中でつらくなったらひと駅だけど電車に乗ろう、と思っていたけれど、魅力的な道につられてすいすいと、しかしゆっくりと歩いてこられた。

ここで遅いお昼を、とホットケーキのお店『つるばみ舎』を探す。

マンションの一階にあるらしく、そのマンションをぐるりと一周してようやく見つけた。来る途中にネットで外観の写真を見ておいてよかった。下調べはやはり大事…。

店内はだいぶ客席が埋まっていたが、おひとりさまなのですぐに通された。

事前にメニューを調べて、ベーシックなホットケーキ1枚とフルーツサンドを頼もうと思っていたのだが、まさかのフルーツサンド完売…(気づかなかったが個数限定品らしい)

立て直すのに時間がかかり、ホットケーキ2枚にマッシュポテト(ピクルス付き)とあまおうのアイスクリーム、ホットミルクを頼んだ。

ホットケーキは王道というか、家で焼くような安心できる食感。

マッシュポテトはなめらかで、ミニトマトのピクルスの酸味がおもしろかった。

あまおうのアイスクリームはホットケーキと一緒に出されたので、最後にデザートとして食べようとしたら溶けてしまうかなと思ったけど、心配ご無用だった。さっぱりとしていて、美味。

店内には学生らしき人の割合が高かった。平日の昼間だもんね。

20年前に一度だけ訪れた経堂。東京農業大学の見学に来たことがあったのだ。あの頃工事中だった駅舎はすっかり近代的になり、ショッピングモールまでできていた。

夫へのお土産にといくつかのお店を見て回り、駅に向かって歩きながら冷たい風にジッパーを上げようとしたが腹が出すぎて上がらずにいたところに「美容液の試供品はいかがですか〜」と声をかけられたが、ジッパーが閉まらないわたしに気づき、「あ、大変なところすみません」と謝られてしまった。

この辺は人当たりのよい人が多いなあと思ったが、妊婦だからそう対応してくれている可能性もある。

都心に行くほど人が多くて危険な目にあう確率も上がるので少し心配していたが、何事もなく家路につくことができてほっとした。

もう、ひとりでこんな風に自由に動き回れることは滅多になくなるだろう(出かけたところで、家に残した家族のことが気になってたまらなくなるはずだ)。だからといって、今のうちにひとりであちこち行くぞ!とは思えなかった。

出かけるのなら夫と一緒に行きたいし、美味しいものはふたりで食べたい。今日買ってきたおいしいパンや和菓子も、夫用に半分ずつ残しておいてある。

家にひとりでいてふと思い出すのは、夫と出かけたり旅行したりしたことで、行ってよかった、しあわせだなあとしみじみ感じ入る。

この一日だけの冒険も、これから生きていく糧になるのだ。

 

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