随に

まにまに

歯とわたし

もうかれこれ、歯医者に通い続けて35年くらいになるのではないだろうか。

 

虫歯の多い家系に育ち、初孫ということで散々甘やかされてきたため、物心ついた頃から歯医者に通っていた。歯医者は友だちだ。いや違う。

 

そういうのが普通だと思っていたから、中学生の時「今まで生きてて、虫歯がひとつもない」という同級生がいて、本当に驚いた。

夫も虫歯がない人だ。うらやましい。神なの?

 

とはいえ、すでに口内に虫歯菌と共生を始めてしまったこの体、治療・予防とともに生きていきましょうと腹は括った。

半年に一度の定期検診は欠かさない。

人生の前半は、地元の歯医者にお世話になった。とにかく、虫歯ができやすい体質になってしまったようだった。

学生時代に一人暮らしを始めてからは、下宿先近くの歯医者をタウンページで見つけて(今となってはそんな探し方、この先無いだろう)、彼の地を去ってからも、細々と越県しながら通い続けている。

 

今住んでいる土地からだと、二時間ほどかかる。あほじゃないかい、と思われる方も少なくなかろう。

わたし自身も、近場で済ませたいなと近所の歯医者に行ってみたが、受付のお嬢さんがつっけんどんで恐ろしく、一二回だけでそこに行くのを辞めてしまった。

やっぱり、あの歯医者さんでないと。

 

とにかくわたしはあの歯医者さんを信頼している。丁寧に説明してくれるし、虫歯以外の治療をするかしないか、こちらに判断を委ねてくれる。

治療中も独り言だか語りかけが多く、口を開けているわたしは返事ができなくて少し申し訳なくなるが、そんなことは一向にお構いなしらしいのでそれも安心できる。

 

わたしはアゴが小さいらしく(芸能人のように顔が小さいということではなく、総入れ歯を思い浮かべた時の、上から見たあの逆U字型が狭いのだ)、永久歯が収まりきらずに前歯が上下に重なって生えてしまい、長らくコンプレックスだった。

小学生低学年の頃、歯列矯正をやろうかという話になったが、とにかくその治療が痛そうで怖かった。強制されたわけでもないが、怖くてやりたくないと小さく言ったら、簡単に話は流れ、歯を重ねたまま生きてきた。(歯並びが悪いのはよくないことだと自覚していたので、もっとやれやれと親に言われるかと思いきや、肩透かしをくらった次第だ。今でも不思議な感覚がする)

大人になって、「やっぱり歯並びをきれいにしたい…」と思い、社会人になって貯めたお金もあるし、とこの歯医者へ相談に行ったところ、「しなくてもいいんじゃないですか?」と言われ、大変拍子抜けをした。かなりの覚悟を持って向かったので。

結局、階段状に重なった上の歯は抜いてもらった。

その時も、「永久歯はなるべく残しておきたいんです。しかし、この歯は噛み合わせにも合っていないし、磨きにくいので虫歯にもなりやすい」とリスクを説明してくれた。

見た目も少しはよくなるし、虫歯リスクからも解放されるのなら、と抜歯の決断を下した。

歯一枚分が出っ張っていたので、抜歯をするとくちびるが少しばかり凹んだ。

 

その他にも、「こんなに難しい虫歯の治療は、初めてです。学会で発表して良いですか?」と許可を求められたり、先生が渡米して学会に参加するので休診になりますということもあったりして、勉強熱心で良い先生だなあという印象が強い。

 

先生が歯医者を閉じてしまったら、わたしはどこへ行けばいいんだろうなあ、ということを思い浮かべるようにもなった。

通い始めてそろそろ20年近く経つのだ。

先生がご健在なうちは、お世話になりたいと思っている。